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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)1196号 判決 1950年11月09日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人杉本粂太郎の上告趣意第一点について。

しかし、原判決挙示の証拠を綜合すれば原判決の認定を肯認することができる。そして傷害罪は結果犯であるから、その成立には傷害の原因たる暴行についての意思が存すれば足り、特に傷害の意思の存在を必要としないのである。されば、仮りに、所論のように、被告人には被害者に傷害を加える目的をもたなかったとしても、傷害の原因たる判示の暴行についての意思が否定されえない限り、原判決には所論のような理由不備の違法は存しない。論旨は理由がない。

同第二点について。

被害者が打撲傷を負うた直接の原因が過って鉄棒に躓いて顛倒したことであり、この顛倒したことは被告人が大声で「何をボヤボヤしているのだ」等と惡口を浴せ、矢庭に拳大の瓦の破片を同人の方に投げつけ、尚も「殺すぞ」等と怒鳴りながら側にあった鍬をふりあげて追かける気勢を示したので、同人は之に驚いて難を避けようとして夢中で逃げ出し走り続ける中におこったことであることは判文に示すとおりであるから、所論のように被告人の追い掛けた行為と被害者の負傷との間には何等因果関係がないと解すべきではなく、被告人の判示暴行によって被害者の傷害を生したものと解するのが相当である。されば、原判決には所論のような法律を誤解して事実を認定した違法は存しない。論旨は理由がない。

よって旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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